なぜコーディングブートキャンプは辛くてもやり遂げられるのか

前回ご紹介した通り、コーディングブートキャンプでの生活は、ブートキャンプの名の通りかなりきつい。実際、筆者は途中何度も辞めようと思ったし、他の多くの生徒も、途中やり遂げられるか不安に思うタイミングがあったと言う。ただ、それでも多くの生徒が15週間のプログラムをやり遂げ、無事ウェブエンジニアとしてのキャリアを始められている。

無事ブートキャンプを卒業してからしばらくたった頃、デザインスクール で行動経済学を活用したBehavioral Designを学んだのだが、その中でなぜあのプログラムがうまくいったのか、いくつか気づきがあった。そこで今回は、なぜコーディングブートキャンプは辛くてもやり遂げられるのかについて振り返ってみたいと思う。

何事も新しいスキルを身に着けるのは辛い経験である。実際、近年注目を浴びているMOOC(オンライン学習サービス)のドロップアウト率は96%*を超えているし、英会話学習やジム等の経験を考えてみても、継続することの大変さはわかるだろう。(* 出典:Financial Times)

しかし、ブートキャンプには、MOOC等の自習にはない継続させるための色々な仕組みが仕掛けられている。人が何かを成し遂げるために必要な要素として、Making a concrete declaration(宣誓)、social pressure(社会的プレッシャー)、fear of loss(失うことに対する恐怖)の3つが重要になると言われているが、ブートキャンプにはこれがバランスよく含まれているのだ。


まず、入学するまでの流れを見てみよう。
ブートキャンプに入るためには、合計100時間程度のプレワークとその後の面接が必要になる(詳細記事)。

実はこのプレワークに1つ目の秘密が隠されている。

dashboard

これはプレワークコースのトップページに置かれているダッシュボードである。左から、達成率、何日連続で学んだか、その週の学習速度が表される。これはVisual Feedbackと言われる手法を使っており、特に真ん中の何日連続で学んだかを表すチャートによって、それまでの最長学習記録を失いたくないという気持ちにさせられるうまい仕組みになっている(Fear of Loss)。

プレワークを終え面接も無事成功されると、ユーザーとしてはすでに多くの時間的コストをかけていることに気づかされる。そこに、授業料150万円の支払いとCode of Conductと呼ばれる誓約書のサインが課される。ここまでやるとThe urge for closureと言われる、ここまでやったんだから最後まで終わらせたいというFear of lossの一種が出てくる。また、誓約書がうまくConcrete declarationの役割を果たす。


さて、プログラムが始まってからも色々な仕組みが組まれている。
実際の軍隊のブートキャンプと同じように、生徒は入学した日から新しいアイデンティティを与えられる。この日からあなたは厳しい試験をくぐり抜けてきたJunior Web Developerになるのだ。人はこうやって新しいアイデンティティを与えられると行動規範まで変わる。素人だから無理だという言い訳がしにくくなるのだ。2週間ごとに課されるテストも、自分だけ落ちるとWeb Developer失格のような気がするので必死で勉強するようになる。これはうまくSocial Pressureが働いている例だろう。

しかも、ここで、そのSocial Pressureを強化する悪魔のシステムが発動する。

dash board

上記は、ダッシュボードの一部を切り取ったものであるが、他のクラスメイトの行動が随時表示されるのだ。誰々がどの課題を始めた時間、途中経過のテストをパスした時間、課題を終えた時間全てがリアルタイムで表示される。これによって、家に帰った後も、土日も常に仲間の目を気にしながら、勉強しなくてはいけなくなる。本当にこのシステムのせいで相当メンタル食らいかけたが、あの大変なプログラムをやり遂げるためには必要なシステムだったと思う。

ここまで聞くと辛いことだらけにも思えるが、もちろんいくつか救いは残されている。そのうちの1つが、“たったの15週間だけでフルスタックエンジニア”という文言である。この言葉のおかげで、15週間だけの我慢だ!と思えるのだ。実は、これは立派な行動経済学の理論でFramingと言われる手法である。また、15週間(約3ヶ月)という期間もよく考えられており、人が未来のことをうまく見積もれない(Time Distortion)という性質に配慮したうまい設計なのである。これが6ヶ月間で、もっとゆったりやろうというようなプログラムだった場合、まだまだ半年もあるから大丈夫だろうと日々の勉強を追い込まなくなり、結果最後までやり遂げるのはかなり厳しいものになっていただろう。(実際、Flatiron Schoolのファウンダーも、この期間設計は試行錯誤の上、3ヶ月が一番効果的だと判断したらしい)


以上、Behavioral Designの観点から見た簡単な分析だったが、なぜコーディングブートキャンプがうまくいくのかなんとなくわかっていただけたであろうか。1人で一からプログラミングの勉強をやり遂げられる自信のない人には本当におすすめのプログラムである。

また、行動経済学、Behavioral Designの領域は奥が深いものなので、そこらへんについては、別の記事で深掘りしようと思う。