【連載】デザイン教養101。モホリ・ナジの半生とニュー・バウハウス

先日The New Bauhausという映画を見てきた。モホリ・ナジの半生とニュー・バウハウスの歴史に迫ったドキュメンタリー映画だ。

バウハウスといえばデザインを学ぶ者で知らぬ者のいない学校だろう。その後、古典主義を重んじるナチスによって、たったの14年間で閉鎖されてしまったことも有名な話だ。しかし、その後、バウハウスの教授陣がシカゴに渡り、ニュー・バウハウスの名で、アメリカのデザイン教育に大きな貢献をしたことを知らない方も多いのではないだろうか。そこで今回は、歴史に翻弄されつつも、ニュー・バウハウスでの活動に尽力したモホリ・ナジの半生について紹介したいと思う。

 The New Bauhaus
シカゴ国際映画祭でのプレミア上映会(日本での公開日は未定)

モホリ・ナジは、ハンガリー出身の写真家、画家、タイポグラファー、美術教育家である。ハンガリー革命を受けドイツに亡命した後、モダニズム建築の三大巨匠でもあるウォルター・グロピウスに誘われ、1919年からバウハウスで活動し始めた。

Source: Bauhaus Archive

モホリ・ナジは、妻との間に生まれた子供に、愛人と旅行した場所の地名をつけてしまう等どうしようもない面もあった様だが、非常に魅力的な人柄で、誰からも好かれるような人物だったらしい。また、新しい技術への興味も強く、新しいデザインやアートを作り出そうと常に実験していた。デザインやアートの学位を全く持たないモホリ・ナジだったが、そんな人柄や好奇心が買われ、グロピウスにはかなり気に入られていた様だ。

モホリ・ナジ (Source: WikiArt)

1933年にナチスが政権を掌握しバウハウスが閉鎖されると、モホリ・ナジはアムステルダム、ロンドンに亡命。フリーランスデザイナーとして生活していたところ、シカゴ芸術産業協会からの招聘を受けた。1937年にシカゴに移ったナジは、その地でニュー・バウハウスという名のデザイン学校を立ち上げた。

ニュー・バウハウスの教育は非常に先進的で、当時はまだアートとして認められていなかった写真、プラスチックや鉄の加工などエンジニアリング的なこと、時に彫刻、音楽、舞台などの芸術まで幅広く教えていたらしい。

ニューバウハウスカリキュラム


当初はそんな先進的すぎる教育の重要性を誰も理解できず、シカゴ芸術産業協会からは、それが産業にどう役立つのかわからないという理由で支援を打ち切られてしまう。しかし、モホリ・ナジはその後も粘り強く投資家に説得して回り、バウハウス流デザイン教育をアメリカに根づかせようと精力的に活動し続けた。そんな彼の努力も実り、1944年には現在まで続くInstitute of Designに発展させた。ちなみにInstitute of Designの初代学長は、“God is in the detail”(神は細部に宿る)や“Less is more”などの言葉を生み出したミース・ファン・デル・ローエである。


Institute of Designになってからも、依然として彫刻などはなんのために役立つのかわからないとずっと非難されていたみたいだが、卒業生がDoveの石鹸のデザインに彫刻の技術を応用させた結果、爆発的なヒットを生み出した。モホリ・ナジの目は間違っていなかったみたいだ。

Source: Carlotta Corpron (1901-1988); [Man and Student Looking at Object]; nitrate negative; Amon Carter Museum of American Art; Fort Worth TX; P1988.18.285
彫刻の技術を応用して肌触りの良い形を生み出した。是非動画を見てみてほしい

また、写真の分野での貢献は目覚しく、アーロン・シスキン、ハリー・キャラハンの伝説的写真家コンビの元で学んだ石元泰博などが活躍している。

出典:石元泰博『桂離宮』
Source: Harry Callahan “Eleanor and Barbara, Chicago, 1953″
Source: Aaron Siskind “Pleasures and Terrors of Levitation”

その後、Institute of Designはイリノイ工科大学に吸収されたが、今でもモホリ・ナジによって作られたニュー・バウハウスの教育理念は色濃く息づいているみたいだ。Foundationと言われる1年間のコースでは、グラフィックデザインなどの他に、写真やプロダクトデザイン、プログラミング、データサイエンス、IoTデバイス等最新テクノロジーを学ぶという。

イリノイ工科大学 Institute of Design
LPV
Line(線)、Plain(平面)、Volume(立方)を組み合わせて美しい形を生み出すLPVと言われるアクティビティには、バウハウス教育の影響を強く感じる。
バウハウス時代から続くフォトグラムの授業も健在だ。

以上で、ニュー・バウハウスについての記事は終ろう。だいぶ理解は深まっただろうか。ビジネスの世界においても、デザインが現代の教養として注目されつつあるいま、今後もバウハウス、アーツ・アンド・クラフツ運動など著名なデザイン教養についての記事も随時掲載していこう。